甲状腺
頸部前面に存在し3~5㎝程度の蝶の形をしている臓器です。甲状腺は、脳(視床下部―下垂体)からの命令で甲状腺ホルモンを合成・分泌します。甲状腺ホルモンは、全身の臓器(中枢・心臓・腸管・脂肪・骨)に作用し胎児発育にも重要な働きを呈します。
甲状腺ホルモンの状態により脳のホルモンは分泌亢進や低下がみられます。
(中毒ならこれ以上でないように中枢は抑制され、低下している場合は、甲状腺ホルモンを出そうと中枢は過剰に分泌されます。左記図参照【図5】)
臓器 | 分泌ホルモン | 正常 | 甲状腺:中毒 | 甲状腺:低下 |
---|---|---|---|---|
視床下部 | 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH) | → | ↓ | ↑ |
下垂体 | 甲状腺刺激ホルモン(TSH) | → | ↓ | ↑ |
甲状腺 | 甲状腺ホルモン(FT3/FT4) | → | ↑ | ↓ |
甲状腺中毒は、さまざまな原因がありますがもっとも有名なところは、バセドウ病になり、そのほかとしては、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎があります。
バセドウ病
甲状腺を刺激する物質(抗TSH受容体抗体等)が甲状腺を刺激することにより甲状腺ホルモンを大量分泌して全身の臓器に影響を及ぼす病態です。
自覚症状しては、頸部腫大(甲状腺腫大)、動悸、息切れ、振戦(手指振戦)、体重減少などがありますが複視や脱力発作(飲酒後などの成人男性)も生じることがあります。
また、心臓に影響して、血圧上昇や頻脈、不整脈を生じて心不全を誘発したり、ホルモンバランスが崩れることにより月経不順などが見られることもあります。
検査所見としては、他の甲状腺中毒と同様で甲状腺刺激ホルモン(TSH)が抑制され、甲状腺ホルモンが高値を示しますが、程度は様々です。典型的ものでは未治療の場合は、甲状腺刺激ホルモンは感度以下を呈してきます。
治療としては、
薬物療法、放射線療法、外科的手術などが、内科的治療として薬物療法を行います。
薬物療法としては、チアマゾール、プロピルチオウラシルの2種類があります。2年以上いい状態を持続して治療不要となる可能性は、教科書的には1年で16%、累積で59%程度といわれており薬剤が不要となる患者さんの割合は多くはないですが本邦では最初に導入される治療としては一般的です。(ただし、一般的な薬剤同様に定期的な副作用確認は必要です。)
亜急性甲状腺炎
風邪などのウイルス感染後(先行感染後)に生じる甲状腺が破壊される病気で何歳でも生じます(20歳以下はまれ)。
先行感染後数週間後に頸部の痛み(自発痛と圧痛)を生じ、頸部から顎、耳、後頭部への痛みが広がり、体動(嚥下、咳嗽等)で増悪します。その際に発熱を伴い高い時には40℃近くになることもあります。甲状腺の細胞が炎症により破壊され甲状腺ホルモンが生体内に漏れ出ます、そのため甲状腺中毒(動悸、手指振戦、発汗過多等の症状)を生じます。
甲状腺は痛みを伴い硬く腫れてきますが、痛みは3~4日でピークとなり1週間程度で改善しますが、痛みの部位が移動することもあります(右頸部から左頸部へ移動したり、その逆も見られたりします)
治療としては、痛み(炎症)に対しては痛み止め(非ステロイド系抗炎症薬)を、甲状腺中毒に呈しては対症療法(脈を調節するβ阻害剤を用い)を行います。炎症所見が強い場合にはステロイド(PSL 15~30mg/日)を用いる。ただし、急激なステロイドの減量・中止では約20%が再燃するといわれている。
経過としては、一般的には予後良好で約3~6ヶ月で良くなる(寛解する)ことが多いといわれておりますが、約1/4は一過性の甲状腺機能低下の時期を経て回復します。
まれに、恒久的甲状腺機能低下に陥る場合もあります(10%以下)。
無痛性甲状腺炎
橋本病などをもっていらっしゃる方が、何らかの誘因(出産、薬剤等)で自己免疫の異常生じて甲状腺の破壊を生じる病気です。
甲状腺中毒症状を呈しますが、比較的軽く、短期間であることが多いです。
治療としては、甲状腺中毒に呈しては対症療法(脈を調節するβ阻害剤を用い)を行います。甲状腺機能低下が持続する場合は、甲状腺ホルモン補充を行います。
経過をとしては、予後良好で約3~6ヶ月で良くなる(寛解する)ことが多いといわれております。ただし、産後などでは頻回に再燃することがあります。
甲状腺機能低下症
橋本病が一般的にはよく知ら得ております。
橋本病は、自己免疫の疾患のため甲状腺に炎症細胞が入り込み甲状腺機能を低下させてしまう疾患です。
自覚症状としては、ゆっくり進行することも多く治療前には自覚できていないこともあります。だるさ(倦怠感)、寒がり等があり、検査所見・身体所見としては、中毒同様ホルモンバランスの乱れによる月経不順や、下肢の浮腫、コレステロール高値などがあります。また、長期間放置していると腎機能悪化の原因や動脈硬化の原因の一つになるともいわれております。
治療としては、
海藻類等の過剰摂取が無ければ、薬物療法が、一般的です。薬物療法としては、レボチロキシン(商品名:チラーヂン)の補充となります。
原発性アルドステロン症
体の腎臓の上にある臓器の副腎という臓器からアルドステロンが過剰に分泌される疾患です。高血圧患者さんの1~2割程度いらっしゃるといわれております。
アルドステロンが過剰に分泌されることにより体の中にナトリウムが過剰に取り込まれ血圧が上昇し、カリウムが排泄され低カリウム血症を生じて不整脈やインスリン分泌が障害されたりします。また、アルドステロンの過剰により血管の壁(血管内皮)が障害され動脈硬化が進行するともいわれております。
若年発祥の高血圧や低カリウム血症の高血圧患者さんなどでは鑑別が必要になります。確定診断には負荷試験が必要になりますが、塩分摂取の状態で診断率が変わりますのでアルドステロン値、レニン活性値、アルドステロン/レニン比を相対的に評価し専門病院へ紹介いたします。
治療は、片側副腎に病変があれば手術が第一選択で、両側副腎からの過剰分泌であれば内服加療となり当院では薬物療法の患者様の加療を引き続き行っていきます。